建物が完成した時の施工品質を初期品質と呼ぶことにすると、初期品質は建物によって全て異なると言っていい。初期品質の階級を良いものから悪いものへ10段階に分けたとすると、仕事が良くないために(やるべきことを少し省いたために)等級10のものが7になったり、でたらめな仕事で5になったりなど完成の時点で品質にばらつきが生じ、その後の劣化へのスタートラインは同じではなくなる。こんなことは品質を売り物とする製造業の製品に決してあってはならないことなのだが、建築という製造業の現場には残念ながらある。
初期品質等級と年数を経ることによる劣化等級の関係は概念的だが次のように表すことができる。

つまり初期品質の高いものほど長い耐用年数に到達することが出来、仕事が粗雑なものほど耐用はより短くなると考えられる。
以上のことは売買契約や商品受け渡しに際して当然問題にならなければならないが、何の疑いも持たれずに新築物件として引き渡しが行われてきた。しかし例えば築10年の建物を5億で売ろうとしたとき、修繕費が1億かかるから4億になるなどということになったとき、初期品質がどうであったかが問題にならざるを得なくなる。
さて誰も触れたがらない建物の初期品質だが、完成時点では専門家でも分からないというやっかいな問題である。
仮に明らかに所定の品質ではないと分かっても、これがいくらの減価に相当するものかを査定する方法も基準もない。瑕疵担保期間というのがあるが、こんな複雑なものをたった2年という保証期間で片づけるには問題がある。明らかに手抜きがあった場合は例外だが、瑕疵かどうかの区別判定も困難である。
鉄筋コンクリートの建物は古い物でかれこれ100年になろうとしている。マンションの場合、タイルや吹付、ボードやクロスで覆われた建物が風雨にさらされてようやく40数年となり、リフォームやリニューアルに関するいろいろの問題が浮かび上がってきた。例えば40年でコンクリートがこんなふうになるわけがないとか、20年でタイルがこうなるのはおかしいなど、年数を経てはじめて分かる問題である。
建物が何年経った時どうなっていれば良いかなど基準はない。
仮に初期品質が同じでも完成した年代や場所が違うと経年劣化は厳密には異なる。一方初期品質を決めようとすると耐久性という品質だけでも工事中のチェックポイントは無数にある。このように初期品質を決めることは不可能に近く、また仮に決めたとしてもその後の経年劣化を割り出したり、修繕計画に利用したりするのも難しい。つまり初期品質等級など決めても無意味という結論になってしまいそうだ。
しかし本当にそうだろうか。例えば同じ建物が同じ場所で同時に施工されて完成し、初期品質等級が10と5であった場合、しっかり施工された10の方がより長い耐久性を示すであろうということには誰も異論はないはずである。住宅という製品に関していえば、我が国の場合平均寿命は木造で25年、コンクリートでたかだか50年といわれている。資源や地球環境の面からも、もっと長く使えるものにする必要があり、近年100年住宅といわれている所以である。
アメリカでは第三者機関による常駐管理が一般的である。確かに全工期常駐でなければ無数のチェック項目には対応出来ない。多くの現場責任者の本音は原価と工期が心配で不本意ながら品質は二の次にならざるを得ない状況にある。
建物の品質は勿論施工だけで決まるものではないが先にも述べたように、ここで問題にするのは同一設計仕様のもとでの施工品質のことである。初期品質を数値化することは困難にしても、完成時点で施工品質にばらつきがあって、他の多くの製品に比べてそのばらつきが大きいとしたら、少しでも小さくするためのうまい管理システムを大急ぎで定めて実施していく必要がある。うまい管理システムは単なる監理強化や建設業とその現場に負担を強いる従来のやり方からは決して生まれない。
[ 平成10年11月の作成 ]